精神科医の樺沢紫苑先生が2020年7月に出版した「父滅の刃」を読みました。
タイトルには、大ヒット漫画「鬼滅の刃」に着想して、父性消滅に対抗する刃という樺沢先生の思いが書名には込められています。
いまだに自分の家庭を持てず「父」になったこともない私には、「50を過ぎても父になれないとは何事だ!」と喉元に刃を突きつけられ、さらには過去の心の傷までえぐられるような気持ちになりましたが、同時に、良き大人になるための力も湧いてきました。
この本のテーマである「父性」とは何でしょうか。
樺沢先生は「父性」について4つの要件を挙げています。
- 規範を示している
- 尊敬、信頼されている
- 「凄い」「そうなりたい」と思われている。
- ビション、理念、方向性を示している
この4要件を備えた人が、周囲の人の目標となる存在、すなわち「父親的な力強さを持った」「良き父親(Good Father) になることができます。
この要件を備えて父性を取り戻すために、樺沢先生は5つの処方箋を提示しています。
- 「父親殺し」をして自己成長し、自らのビジョンを持った大人になる
- 自己成長によって父親の問題を超える
- 実際に家庭の中で「良き父親」になる。
- 実の父親以外に尊敬できる「メンター」を持つ
- 組織の中で父性的存在になる
私は、父性の4要件を備えていると自分ではとうてい思えず、5つの処方箋についても、ひどく難しいことに感じられます。
まず、第3の処方箋である、実際に家庭の中で子供の良き父親になるということについては、結婚していない現状では必然的に不可能です。
そして、第1の処方箋に「父親殺し」とありますが、要するに父親に反抗し、葛藤を乗り越えることができたかどうかということです。自分の思いを父親にぶつけ、反対されても思いを貫き、最終的に父親との折り合いをつけることができれば「父親殺し」は達成できます。
その点で、私は過去に「父親殺し」に失敗しました。
15年ほど前、私は転職を決心し、その職に就くために必要な資格を得るための大学院への合格も決めていました。しかし、父は私の考えに猛烈に反対しました。「結婚はどうするんだ」とも言われました。私は反抗することもできず、ただただ父に許しを請うばかりでした。結局、現職を辞することは諦めざるをえず、しかも精神を病むことにさえなりました。
あれから長い月日が経ちましたが、今でも当時のことを忘れることはできません。自分の心の中で父との折り合いが未だについていないのでしょう。
第5の処方箋についても、所属する組織の中で父性的な役割を果たすことが十分にできていないと感じています。業務上のことになるので実情を記すことは差し控えますが、父親殺しが済んでおらず、そもそも父性を備えていないのだということが周囲にも見透かされているのかもしれません。
そして、残された処方箋は2つになってしまいたが、幸いにして第4の処方箋である「メンター」を持つことは叶いました。
この1年ほど、私は論語を学んでいます。論語は、2500年ほど前の中国に生きた思想家・孔子の言行をまとめた書物です。中学校の古典や高校の漢文の授業で、誰もが多少は目にしたことがあるはずです。
孔子が論語の中で説いているのは、「仁義礼知信」という言葉で代表される徳目です。徳目は良き人が守るべき規範と言い換えてもいいでしょう。また、孔子は、論語の中で、自分の道を知ることができれば死んでも構わないとも言っています。道とは今風の言葉では「ビジョン」ということもできます。た、孔子は多くの弟子を集め、弟子たちから尊敬と信頼を集め、やがて孔子と同じ立場に就いた弟子たちの言行も論語の中に記されています。
私は父性の4要件を備えた孔子を自分のメンターに据えることを決意しました。
もちろん、メンターを持っただけでは不十分です。自分の中に規範を確立できず、ビジョンも曖昧です。当然、誰からも尊敬も敬意も集められず、自分のようになりたいと思ってくれる人もいません。
ここから先は、第2の処方箋である「自己成長」をしていかなければなりません。孔子が説いているように自己成長のための学び(インプット&アウトプット)をしなければなりません。
そして、「父性」の獲得は、その先にあるのだと自分に言い聞かせます。
父も80歳を超えました。
父が元気なうちに、尊敬と信頼を得られる大人になります。
応援をいただければ幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございます。